大河ドラマに思う

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コロナ騒ぎによってNHKの大河ドラマが年をまたぐという、ちょいと異例な状況が生じている。大河ドラマは毎年欠かさず見ているわけではないが、今年、「麒麟が来る」を欠かさず見ている。第53作の「軍師官兵衛」依頼である。のは久しぶりのことになる。
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今回が61作目になる大河ドラマであるが、ふとどれぐらいこの大作ドラマシリーズを見ているのかを考えてみた。思い出せる限りで、毎回欠かすことなく見ていたのはは以下の如くである。

第 8作 樅の木は残った
第 9作 春の坂道
第10作 新・平家物語
第11作 国盗り物語
第12作 勝海舟
第13作 元禄太平記
第16作 黄金の日々
第20作 峠の群像
第30作 信長 KING OF JIPANGU
第35作 秀吉
第38作 元禄繚乱
第41作 利家とまつ~加賀百万石物語~
第45作 功名が辻
第47作 篤姫
第48作 天地人
第53作 軍師官兵衛

そして今回の「麒麟が来る」は第61作目。このシリーズを意識し始めたのは第6作の「龍馬が来る」あたりからで、第7作の「天と地と」も結構見ていた記憶がある。第8作から第13作までは毎年欠かすことなく見ているのは、この時期私の小学校の中学年から中学校にかけての頃であって、親が見るからそれに付き合っていたに過ぎないが、私の歴史好きはこのあたりで始まったのは間違いない。

高校に入った頃からは、部屋で音楽を聴いていることが多くなり、さらには家のテレビが2台以上になったことで、それ以外のテレビドラマを見たりすることが多くなって、次第に大河ドラマとの縁遠くなっていった。

第20作の「峠の群像」は私の大学時代の作品で、天理の町に下宿していた私は部屋にちゃんと映るテレビはなかったのだが、なぜかちゃんと映るテレビを持っていた友人のS君の部屋に押しかけては、毎回欠かさず見ていた。現在大阪のとある大学で上代文学を講じているS君は、やはり歴史好きであり、この「峠の群像」を欠かさず見ていた。そのS君が「今回は面白いぞ」というので、一度見せてもらいに行ったら癖になってしまったのである。結果、私は毎週日曜日、S君の家に入り浸ることになった。

織田信長画像(秀吉清正記念館)

織田信長像

次の「信長 KING OF JIPANGU」までは10作ほど飛ぶのだが、この間は私の独身時代であり、毎晩のようにどこかの居酒屋で飲んだくれていたのでテレビどころではなかった。

そして結婚。家でゆっくりとテレビを見るような環境に恵まれ始めてからは、毎年、最初の1、2作を見て、面白ければ続けてみる…というようなことの繰り返しであった。そして、こうして自らチョイスして視聴するようになってからのラインナップを見ると、その作品は戦国時代のものに偏っているなあと、今自分で上の一覧を見て気づいた。

争い事はあまり好きではない私がこの時代に惹かれるのは、やはりあのような時代だからこそ生じる人間群像のありように魅力を感じるからなのだろう。強烈な個性が伝えられる歴史上の英雄が、数多く同時代に存在し、その英雄たちがしのぎを削りあう…そこに生じるドラマ性が私を引きつけるのであろう。むろん、その「強烈な個性」はドラマ制作者や、それを演じる役者さんたちというというフィルターを通しての物に過ぎないが、同時代を幾度も違うフィルターを通してみるゆえに、ふと、こんなことをしてほしいなとの希望が一つある。

それはこうである。

大河ドラマは、一人の歴史上の人物の生涯を描くものとなっているため、結構長い歳月を扱うことになる。しかしながら、例外として「峠の群像」「元禄繚乱」のような忠臣蔵ものもあり、それでも「大河」で扱えるというのならば、歴史上の人々の耳目に残るような出来事、一つのみに焦点を絞ったドラマを「大河」としてもよいのではないかと思っている。そしてその出来事を深く掘り下げて行く。

その手法は…その出来事に関わる複数の人物を主人公としていくつかの別個のドラマを一つの作品としてまとめ上げるのだ。一つの出来事を複数の立場から見つめ、その出来事の本質を掘り下げて行くのだ。

例えば今回の「麒麟が来る」にも描かれた比叡山の焼き討ち。

比叡山の攻撃を指示した信長を主人公としたものを一つ、その際に重要な役割をはたした明智光秀の主人公としたものを一つ。さらには襲撃された比叡山の人々の誰か(覚恕がいいかな?それとも名もない架空の誰かを創作するのもいい)を主人公としたものを一つ。その背後に見え隠れする浅井・朝倉の誰かを主人公にしたものを一つ、それぞれをワンクールのドラマに仕立て最後の数回で、それらをまとめ上げて全体を終わらせる…まとめ上げるのは正親町天皇あたりかな…。

いくつもの視点から一つの出来事を見つめ、その出来事を立体的に見つめ直すのだ。

もちろん上に挙げた作品を見ただけでも、同時代を描いた作品はいくつもある。例えば一番多い戦国時代で見ると。斉藤道三・織田信長・豊臣秀吉・黒田官兵衛・前田利家・山内一豊・直江兼続が主人公となり、それぞれが見た戦国末期が描かれてはいる。それだけでも歴史の重層生が十分に感じられるのではあるが、それぞれのドラマにおいて、脚本家なりの人物像のズレや、演じている役者さんたちに対する私たちのイメージから、どうしても座標軸に揺らぎが生じ、その出来事の位置づけがはっきりしなくなるのだ。

これを一人の脚本家が同じキャストで行うならば、その座標軸の揺らぎは少なくなり、その出来事の位置づけはより明確化するはずである。そして、このことと齟齬するように聞こえるかも知れないが、一つの出来事に対する私たちの視点はより複雑化し豊かになるように思える。

ところで、大河ドラマにはもう一つ希望がある。

今回の記事を書くにあたって初回からの作品のリストをざっと目を通したのだが、一番古い時代を描いたものは平将門を描いた「風と雲と虹と」、それについで前九年の役を描いた「炎立つ」あたりになるのだが、時代は平安時代とはいえ描かれているには武士、舞台は東国。平安の御代の主人たる貴族たちの姿は描かれてはいない。天神さん…菅公 菅原道真だって十分に魅力的だし、道長だって…

さらには我が…明日香・奈良時代の人々だって…

なにせ、日本が日本となったのはこの時代なんだから、好むと好まざるにかかわらずこの国に生きる者は、あの忌まわしい戦争と向き合わなければならないのと同じように、一度この時代ときっちりと向き合わなければならないんだと思うんだけどなあ。

「大化の改新」や「大仏開眼」、それに「聖徳太子」なんてのもあるが、どうしてもこの時代、資料が後の時代に比べて乏しく、一つの物語を作り上げて行くのが難しいことは私のような者にだって十分分かっている。しかし、求められているのは人間的な真実であって歴史的な真実ではないのだから、そこは自由に想像を膨らませてもらいたいと思う.。一度この時代をじっくりと扱ってほしいものだと思う。

さらに個人的な思いを言えば…

ご存じのように万葉集の最後の4巻(巻16~巻20)は、万葉集の成立に大いに力を尽くした大伴家持の歌日記の体裁をなしている。これを基軸として、同時代の歴史的事象をつなぎ合わせて行けば結構面白いものになるんじゃあないかなどと私は思っている。

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コメント

  1. 玉村の源さん より:

     いいですね。
     ご提案2件(+1件)、大賛成です。

     第1案は、「藪の中」のようになっても面白いかもしれませんね。賛否両論、ありそうですけど。

     NHKの古代史ドラマ3部作は、どれも90分×2夜位でしたでしょうか。1年間の大河で作ったら面白いでしょうね。

     家持を主人公にすると、政権は、長屋王→藤原4兄弟→橘諸兄→藤原仲麻呂→道鏡→藤原永手→大中臣清麻呂、などと推移して行きますね。波瀾万丈ですね。

    • 三友亭主人 より:

      源さんへ

      私も「藪の中」を思っていました。あるいは「史記」なんかが、いくつもの本紀と列伝を並べ、複数の人物の視点を提示することによって出来事を立体的に浮かび上がらせる手法・・・
      一人の人物の生涯や思考をじっくりと追いかけて行きたい人から見ればちょいと物足りないかもしれませんが、歴史というものを理解しようとすれば、こちらの手法の方がより明確な視点が示せるように思います。

      家持さんの方は・・・藤原久須麻呂とのやり取りを中心に、諸兄・仲麻呂とのからみを考えるのも面白いでしょうし、「長屋王→藤原4兄弟」というあたりは、旅人と房前のやり取りを通してあの事件を見て見るのも面白いでしょうね。

  2. ちびた より:

    お久しぶりです。
    私も親が見ていたので一緒に見ていたことから始まって、ほとんど毎年見ています。

    一番古いのは若い石坂浩二が出ていた「天と地と」で、馬上から斬りかかってくる上杉謙信を床几に座った武田信玄が軍配1つで対抗したシーンをおぼろげに覚えています。

    どうしても戦国時代のドラマを面白く見てしまいますが、幕末の「篤姫」が一番いい話だったと思っています。

    今年もよろしくお願い致します。

    • 三友亭主人 より:

      ちびたさんへ

      おひさしぶりですねえ、今年もよろしくお願いします。
      「天と地を」は私も見ていた記憶があるんですが、もうひとつはっきり覚えていません。
      最後のほうの、石坂浩二演ずるところの上杉謙信がぱたりと倒れてしまうあたりは覚えているのですが・・・
      それと、もみの木は残ったのオープニングが、まだ子供だった私にはとても怖かったことと(笑)

  3. 根岸冬生 より:

    いくつか記憶に残る場面が
    藤岡弘が坂本龍馬をやったのは、「勝海舟」だったか。
    おの無邪気な笑顔が印象的でした。
    あと石田三成が中村敦夫だったもの。
    最後に、処刑されるときに、領地の柿がさしだれる場面。
    いい役者なと思った。中村敦夫。

    飛鳥、奈良は見てみたい時代背景ですね。

    • 三友亭主人 より:

      根岸さんへ

      私はねえ、「峠の群像」で浅野内匠頭が事件を起こし、切腹し果てた知らせを聞いた緒形拳の扮する大石内蔵助が茶碗の中に顔を突っ込み、顔じゅうご飯だらけにして泣いていたシーンですね。

      主君の死に対する悲しみがその中心にはあるのでしょうが、それだけじゃあない一口では言えないようなもろもろの感情が伝わってきて、一緒に見ていたS君と思わず見入ってしまったことを思い出します。